一夜華開世界香
道元禅師の広録に「三春、果満菩提樹、一夜、華開いて世界香し」という漢詩があります。
「1月、2月、3月は、修行の功徳が満ち、菩提樹が一夜に花が開いて世界がすべて仏法の香りに満たされる。」という意味です。
花が開けば、その周辺の世界は香りに包まれます。香りは目に見えないですが、はっきりとわかるものです。マルセル・プルーストも著作『失われた時を求めて』の中でマドレーヌの香りが記憶をよみがえらせたように、香りは忘れていたもの、自分では気づかないものを一気に私と結びつけてくれるものと記しています。
この時節の朝課は早朝の冷え切った本堂で勤行するので、身が引き締まるような時間ですが、御本尊様にお供えしたお線香の香りが、安らかなぬくもりを与えてくれます。
まさしくお供えした香の功徳が回向されて七分攫一(仏は受けた功徳の七分の一しか受け取らず、残りは施した側に回してくれる)という言葉が示すように、御仏から功徳をお返し頂いているような心境になります。
寺院に参拝する方々、お墓参りされる方も香をお供えします。その方たちの仏心、ご先祖様に対する報恩感謝の気持ちが、その寺院を香り高く居心地の良い場所にするのです。
もうすぐ立春です。華の開花と同じように、当山をお参りする皆様の心が仏法の香りで満たされることを願っております。

