坐禅会363「喫茶去」


喫茶去きっさこ

今年5月30日、藤枝観音で有名な盤脚院東堂、山田康夫老師が享年102歳でご遷化されました。
生前、康夫老師は当山御本寺桃原寺が生家である事もあり、末寺である東光寺の事をよく気に掛けてくれていました。

私が大学4年生の時に、自分の夢であった教員の道に進むか、いずれ寺を継ぐために永平寺に修行に行くか悩んでいた時、 当時大本山永平寺で副監院(本山の副住職のようなお役)を務められていた康夫老師が、「教員になるにしても、御山のお粥さんを 頂く日々を送ってみなさい。それからでも遅くはないよ。きっとその後の泰光さんの教員人生に生かされますよ。」とおっしゃって くれました。その言葉に励まされるように永平寺の門を叩いたのを思い出します。

御山での修行体験は老師がおっしゃったようにその後の教員人生に大いに生かされました。それは子どもたちや保護者、同僚に対しても、 いつも「喫茶去」の気持ちでいることでした。

上山して百日禁則という厳しい修行期間が明けた時期の事です。ある日、康夫老師の行者さんに呼ばれて副監院寮に拝承しました。 康夫老師はニッコリ笑って「まあ一杯、お茶でも飲みなさい。」と言ってご自分の入れたお茶を私に勧めました。緊張しながらも有り難く 頂いたお茶の美味しかった事。その後は緊張がほぐれ、「修行生活はどうか」と聞いてくれた老師の懐の大きさに甘えるかのように思いの丈を 話したのを思い出します。

緊張していた私に一杯のお茶を飲む行為に集中させ、気持ちを楽にしてくれた老師の優しさが思い出されます。

その経験は、「人で見るな、事で見ろ。」という自分の生涯の教訓となりました。地位や立場が違っても、相手の行った行為に対して どう向き合うかを教えてくださった貴重な体験でした。

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