令和六年五月法話「八十八夜」

令和六年五月法話
 八十八夜

 今年の八十八夜は五月一日です。よく知られた茶摘み歌に「夏も近づく八十八夜…」という歌がありますが、八十八夜とは、立春から数えて八十八日目に当たります。実際、歌にうたわれているように、この日に摘んだ茶の葉は上等とされています。
 茶を中国から日本に初めて伝えたのは臨済宗の御開祖栄西禅師です。時の将軍源実朝に良薬としてのお茶の効能を記した「喫茶養生記」と共にすすめられました。また、お茶と言えば静岡茶が有名ですが、初めに静岡に茶を伝えたのは鎌倉時代の高僧聖一国師(しょういちこくし)です。聖一国師は中国から茶の実を持ち帰り、生誕地である駿河国阿倍郡三和村足窪(現静岡市葵区足久保)にそれを蒔いたと伝えられています。
 寺院では伝来以来、香り高い茶は大切な供物とされてきました。正式な仏事法要では『献茶』(御本尊様や御先師様に導師がお茶をお供え)します。
 八十八夜は、まさに「夏も近づく」ということで、農村では田の苗代作りや、畑作物の種まきを始める重要な時期でした。とくに「八十八夜の別れ箱」といわれるように、霜による農作物の被害から解放されるときであり、「八十八」は漢字の「米」に通じ、末広がりの「八」が重なる縁起の良さも加わって、昔から農事の目安として欠かせない日でした。この日は、田の神に供え物をして農作祈願もしました。
 瑩山禅師は『喫茶喫飯』(茶におうては茶を喫し、飯におうては飯に喫す)と示されました。毎日の何気ない生活のひとこまひとこまになり切ってつとめることが仏のいのちを生かす道です。
 坐禅と同じ気持ちで一杯のお茶、一粒の米を有り難くいただきましょう。
                参考文献『日本人のしきたり』飯倉晴武 著

                     谷田山東光寺 住職 石田泰光 合掌

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