五調で心身健康に
コロナ禍も第七波の最中で私たちの不安を伴う生活はなかなか改善しません。
特に高齢者や基礎疾患のある方は免疫力が落ちている事で感染した場合に重症化する傾向が高いです。
不安の中ですが、自暴自棄になる事なく毎日の生活を規則正しく過ごすことが大切です。仏教では、お釈迦様はじめ道元禅師しかり歴代の祖師方は皆、養生医学の権威でもありました。疫病や風邪(ウイルス)を防御する免疫力をつけることが数多く説かれています。
禅寺の生活では、坐禅を修行の第一儀とし日常の食事と睡眠も大切にしています。
この坐禅の三調(調身、調息、調心)と食事、睡眠を加えた五調を調えることが免疫力を高め、健康に生活する為のを調えたいものです。
私は永平寺の修行時代に人間にとっての欲求について実感する事がありました。
大学時代、自由気ままに生活していた私にとって永平寺での生活は、当初、大本山で修行できる喜びよりも、自分の思うようにならない苦痛の方が大きかったです。しかし、毎日坐禅をし、読経し、作務をし、作法による食事をし、僧堂内に畳一畳与えられた自分の位で俵巻きにした布団で睡眠する生活を送っていくと、心も体もそれが当たり前になり、苦痛に思えなくなってきました。初めは足が痛かった坐禅でしたが、痩せて体も柔軟になってくると楽に坐れるようになりました。いつも空腹だったお腹も胃袋が縮まり一日三食の精進料理で食欲を満たせるようになりました。
多くの禅に関する著書を書かれている桝野俊明老師は「修行を積んだ禅僧は、弟子には厳しく接しますが、市井の人たちには、いつも相手を包み込むような心で相対します。感情を高ぶらせたり、声を荒げたりということはありません。そこには食事とのかかわりがあるのではないかと私は思っています。」とおっしゃっています。
「食事」は体をつくるものですが、それだけではなく心にも影響を与えています。何を食べるかによって心は変化するといってもいいでしょう。
そして、不安や体の痛みで寝むれなかった「睡眠」の時間が、消灯と共に深い眠りにつき、朝の振鈴(起床時刻を伝える鈴の音)できっちり目が覚めるようになったのです。御山の就寝時刻と起床時刻は季節による多少の違いはありますが、毎日決まっています。毎日、規則正しく生活すると体のバイオリズムが安定して、しっかりと睡眠をとれるようになるのです。私は、その時、睡眠こそが人間にとって最も大きな欲求であると実感しました。
コロナ禍の中、不安により身体だけでなく心の健康を崩している方たちにこそ「心身健康」の実践、五調生活をお勧めいたします。